りぼんの読書ノート

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オリガ・モリソヴナの反語法(米原万里)

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ロシア語通訳の第一人者であった、故米原万理さんが書いた唯一の長編小説です。

1960年代のプラハで、ソビエト学校に通っていた日本人留学生の小学生・志摩の記憶に残る相当の高年齢ながら年齢不詳の舞踏教師オリガは、卓越した舞踏技術だけでなく、ガラガラ声の毒舌で名物教師として知られていました。大げさに褒めるのは罵倒であり、けなすのは誉め言葉という独特の「反語法」と強烈に下品な言葉遣いは、生徒を震え上がらせていたけれど、志摩はオリガを慕っていたのです。

志摩は、オリガの過去には深い謎が秘められていると気づきます。オリガと親しく、秘密を共有しているようなフランス語教師エレノーラもまた、謎の存在であり、さらには彼女ら2人を「お母さん」と呼ぶ天才転校生ジーナのことも不思議に思っていたのです。

30年がすぎ、舞踏をあきらめてロシア語通訳となった志摩は、ソ連邦崩壊直後のモスクワでかつての親友カーチャとともに、昔の疑問の解明に乗り出します。ついに真相にたどり着いた志摩が理解したのは、ひとりの天才ダンサーがたどった数奇な運命であり、スターリン時代のソ連が引き起こした残酷な物語でした・・。

30年代の大粛清時代のシベリア、60年代の雪解け時代のプラハ、90年代のソ連崩壊直後のモスクワという物語内の時間の流れが、本書をスケールの大きな小説としています。オリガの反語法は悲劇を訴えるためではなく、悲劇を乗り越えるための手段だったんですね。

2008/8