りぼんの読書ノート

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カラシニコフⅠ(松本仁一)

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世界の紛争の場にいつも存在してきた、「悪魔の銃」とも呼ばれることのあるカラシニコフ。本書は、国家が銃器を統制できなくなった時に何が起きるのかを丹念に検証していきます。

著者はまず、シオラレオネに目を向けます。村を襲われて弟を殺され、教室から拉致されて暴行され、強制的に兵士とされた少女ファトマタ。アフリカの「失敗国家」で常態化している悲惨な現状を、この少女の例が示してくれます。同様の事態が、ソマリア、ナイジェリア、赤道ギニア南アフリカなどの諸国で起きている・・。

著者の見てきたアフリカの内戦は、ほとんどが「利権をめぐる私利私欲による戦争」であり、野盗集団と化したゲリラは、子どもたちを拉致してAK47を与えて少年兵に仕立て上げる。銃を与えられた子どもたちは、巨大な権力を与えられたと錯覚し、気まぐれに暴力をふるう。暴力と残虐行為が再生産されていく、恐るべきプロセス。

ここで検証されているのは、軍や武器に対する非難ではありません。国家が武力の統制をできなくなり、国民の安全を保証できなくなったときに何が起きるのか。カラシニコフは、それを拡大しているにすぎないのです。もちろんそれは、恐ろしく歪んだ形での拡大です。「政府を一時的に制圧しても国民の支持がなければ何もできない」との日本の自衛官の発言や、「失敗した国家は少数の武装勢力で転覆できる」とのフォーサイスの指摘は興味深い。

ではなぜ、カラシニコフAK47)なのか。旧ソ連製のカラシニコフは、アメリカのM160などと較べて構造がシンプルで実用的であり、あえて精密さを追求しない設計のため、砂や水などが入っても問題なく作動し続ける頑丈さが非正規武装勢力に好まれているそうです。なるほど・・。

ではなぜ、カラシニコフが世界中に蔓延してしまったのか。冷戦時に旧ソ連や、ライセンスを受けた社会主義諸国や、さらには膨大な不法コピー銃を生産していた中国や北朝鮮が、同盟国を増やす目的で第三世界諸国に提供し続けた銃が、失敗国家を通じて民兵やゲリラに流れたそうなんですね。これも頷けます。そもそも、武器の管理も満足にできない独裁政権に武器を渡すべきではなかったのですが・・。

最後に、ソマリアから独立したソマリランドのエピソードが紹介されています。国連からも認知されていず、援助も受けられない「国家」なのですが、独力でAKを回収して国家建設を進めているんですね。部族共同体による社会秩序ができつつあるのです。暗黒の中での一筋の光明であり、こういう「国家」こそ支援に値するとの著者の主張にも同感です。

2008/8