りぼんの読書ノート

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カラシニコフⅡ(松本仁一)

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朝日新聞に連載されていた第2シリーズです。第1シリーズでは、「カラシニコフ銃口から生まれた」アフリカの「失敗国家」の悲惨な現実が紹介されましたが、本書の舞台は南米からアフガニスタン、中東へと広がります。

貧困ゆえにコカイン密輸ゲリラに身を投じる若者たちが手にする中国製「ノリンコMAK」という怪しいカラシニコフを追うと、中国で違法コピー生産された銃がなぜかUSAの通販業者を介して南米に流れているという、奇妙な現実。

パキスタンのパシュトゥン部族地域で銃器製造職人によって密造されている手作りのカラシニコフが、カイバル峠を越えてアフガニスタンに密輸されている現実。フセインが去った後のイラクで銃を回収できなかったことが、治安維持の決定的な妨げとなった現実。イラク・イラン・トルコ・旧ソ連の国境地帯のクルド族が、自衛のために銃に頼らざるをえない現実。

本書で訴えられているのは、大国のエゴです。利益のために地域平和を無視して銃を売買するだけでなく、そもそも「民族」の居住地を無視して国境線を引いてしまったことが、これらの地域の問題に深く繋がっているのです。

本書では、明らかな犯罪行為に対するものを除いては声高な非難もしていませんし、無責任な解決策も示されてはいません。それらは、読者が考えることなのでしょう。「まずは事実を伝える」というジャーナリストの姿勢には好感が持てます。

第1巻にも登場したカラシニコフ氏(まだ健在なのです!)は、現在では微笑ましい好々爺のようです。「現在のような使われ方は悲しいが、この銃はナチスの侵略から祖国を守るために開発した」との発言は
その通りなんですけどね。

2008/8