りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さくらんぼの性は(ジャネット・ウィンターソン)

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17世紀のピューリタン革命のさなかのロンドン。数十匹の犬を飼いながら社会の底辺に生きる大女(ドッグ・ウーマン)に拾われたジョーダンは、「12人の踊る王女たち」の末っ子である幻の女性フォーチュナータを探して旅に出ます。

「12人の踊る王女たち」とは、ラプンチェルや人魚姫も登場するグリム的な童話なのですが、12人の王子と結婚した12人の王女は末永く幸せに暮らすことになるのです。ただし、王子たちは抜きで・・!!

ついにジョーダンが巡り合ったフォーチュナータは、この世に存在しない女性で、彼女が暗示的に語ったのは、無礼な猟師オリオンを殺した女神アルテミスの話。ジョーダンは、彼女とともに暮らすことはできません。

タイトルは「接ぎ木したサクラの木が、雄になるのか雌になるのか」というエピソードから取られているのですが、物語は、童話的な世界や神話的な世界とも行き来しながら、最後には時間をも越えてしまいます。

現代のロンドンに登場するのは、船を愛し現代のイギリス海軍に入隊するジョーダン青年と、心の中に大女が住み着いてしまった、水銀汚染を追及する女性科学者。ペスト禍の後で燃えるロンドンの街と、現代で燃えあがる化学工場とが重なっていきます。

えっ? どんな話なのか全然わからないって? わからなくていいんです。本書で語られているのは、見せかけの境界線を越えて、歩かれなかった道を行き、手に入らなかった人生を経験する、本の行間で語られる旅なのですから。

2008/8