りぼんの読書ノート

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西のはての年代記Ⅱ ヴォイス(ル=グウィン)

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新シリーズの2作目は、ギフトの時代から20年程度後の時代に移ります。北の高地を降りたオレッグとグライは結婚して、諸国を巡って詩歌を発掘する生活をしています。動物と心を通じさせるグライの能力は昔のままですが、オレッグは、自分に授けられたギフトは、一族の家系に伝わる殺伐とした「もどし」ではなく、創作する能力であると信じているのです。

2人がたどり着いたのは、西のはてにある「アンサル」の地。かつては大学や図書館があり、民に選ばれた道の長による政治が行なわれていたアンサルも、17年前の砂漠の隣国オルド人によって征服されて以来、町も神殿も壊され、書物を焼かれ、文化も、過去の優れた詩作も絶えようとしていました。

本書の主人公は「道の長」の館ガルヴァマンドに住む、17歳の少女メマーです。向学心に燃えるメマーは、道の長によって文字を教えられ「読み人」として育てられるのですが、彼女は、侵略の際の「オルド人の落とし子たち」の一人であり、復讐の念を抱いて生きています。

アンサル人は圧制のくびきから立ちあがろうとするのですが、この話は単純な善と悪の闘いではありません。かつて著者がジブリの「ゲド戦記」を批判したように、「心の闇は魔法の剣の一振りで追い払えるものではない」のであり、「単純化した問いに対する単純な答え」を求めるような話は現実には存在しないということなのでしょう。

人種や宗教や思想信条を問わず非難されるべきは「不寛容」であり「驕慢」であるという著者のメッセージは明らかであり、それはどちらの側にも存在するものなのです。やがて読者は、メマーがもたらす「お告げ」のヴォイスを聞くことになります。「解放されるために解放せよ」と・・。

北の高地から遠く離れたアンサルの地にも、過去から伝わっている不思議な力がありました。北の高地の人々が持つギフトとは、どのような関係があるのでしょうか。オレッグとグライの旅はまだ続くようです。ひょっとしたらメマーも加わるのかもしれません。最終巻「Powers」が待たれます。

2008/8