別れを翌日に控えた夜、互いに相手が「あの男」を殺したと疑っている男女が、「あの日のできごと」だけでなく、自分たちの出生についても解き明かす物語。たった一夜だけの場面、たった二人だけの会話からなっているので、舞台劇のように密度の濃い空間に仕上がりました。
この男女、実は幼い頃に引き裂かれた双子の兄妹なのです。学生時代に「運命の出会い」を果たし、同じアパートに住むことにしたのですが、互いに異性として惹かれあってしまい、別れを決意したのです。
「あの男」とは、2人がでかけたハイキングの最中に「事故死」したガイドの男性。彼こそはかつて2人の母を捨てた「父親」であり、彼を恨みに思う兄妹のどちらかが、直接あるいは間接に手をくだしたのではないかと、互いに相手を疑っていました。「その日」のできごとと、「幼い頃の記憶」をたどっていくうちに、明らかになってきたのは意外な真実なのですが・・2人の心はもうもとには戻れないのでしょう。
あやふやな記憶をたどって過去の真実にたどり着くとの構成は、『蛇行する川のほとり』を思わせます。恩田さんの作品としては、綺麗にまとまったほうではないでしょうか。
2008/5