りぼんの読書ノート

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ゴールドラッシュ(阿佐田哲也)

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阿佐田さんというと、戦後の世相を背景にしたギャンブラーたちの壮絶な生き様を描いた麻雀放浪記を思い浮かべますが、天才勝負師オレンプを主人公とした短編シリーズの時代背景は80年代のバブル期です。

ギャンブラーたちの気質も大きく変わっています。『麻雀放浪記』の時代は、まず食べること、生き延びることがベースにあり、その延長線上に求道的なものがあって、腕に覚えのあるプロたちが好敵手や大勝負を求め歩くという、いわば『宮本武蔵』や『北斗の拳』のような世界だったように記憶しています。

でも、この時代のギャンブラーはもう違います。金を持っているやつを無理にでも勝負の場に引っ張り出し、そいつから金をむしりとるのがギャンブラーの正統な生き方であって、そこにはもう、ロマンはありません。プロ同士が本気で戦うのは、分け前を分捕り合う時に限定されます。確かに、金を持っていない同士で戦っても得るものはありませんので・・。

では、バブルの時代にはギャンブラーたちの景気も良かったかというと、そうでもなさそう。本書の舞台が「ギャンブルに取り付かれた者たちが夜な夜な集まる歓楽街」ということもあり、エイズ騒動で閑古鳥が鳴いているようなのです。

そのあたりの事情はよくわかりませんし、ましてギャンブラーの世界のことなど全然わかりませんが、一匹狼的なギャンブラーというものは、環境適応しにくい絶滅寸前種のような気がします。不動産や株という投機的な世界では、組織的な巨悪が存在しているか、あるいはアマチュアが進出しているか、どちらかのように思えるのです。「ギャンブラー小説」は消え行く運命なのかもしれません。「ギャンブル小説」というものは残るのかもしれませんが・・。

2008/5