りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

For You(五十嵐貴久)

イメージ 1

五十嵐さんには珍しい「純愛ストーリー」です。でも、ここ数年の「純愛ブーム」に対して批判的な小説なのかもしれませんね。だって、ここで描かれるのは「30年前の純愛」ですし、ちゃんとヒネリも効いていてただの「純愛物語」に終わらないのが、この人の作品なのですから。

映画雑誌の編集者として仕事を頑張りつつ、年上の彼とも微妙な関係を保っている朝美。彼女が生まれてすぐに事故で亡くなってしまった母に代わって、彼女を育ててくれたのが新聞社に勤めている叔母。仕事ができて美人の叔母に、恋人がいないのは男嫌いのせい?

そんな叔母が急死してしまいます。身寄りのない叔母の遺品の中に残されていたのは、古い日記帳。そこには、叔母の高校から大学時代にかけての、大恋愛が記されていたのです。といっても、携帯もメールもない30年前の地方都市での恋愛は、控えめなもの。互いに好意を持ちながら、受験勉強の本格化に連れて言葉を交わすことも少なくなっていき、高校卒業と同時に音信不通となってしまった2人。その背景に、2人の関係を発展させてはいけないとためらう「彼の事情」があったということは、2年後の再会で明らかになります。

叔母の死後、朝美は、来日する大物韓流スターへのインタビューで不思議な体験をします。この仕事が叔母の過去と繋がっていたというのが、本書のメインストーリーなのですが、その部分はあまりにも「作りすぎ」と感じられて、余計なものに思えてしまいました。「過去の叔母の恋愛に励まされる姪」というだけで良かったような気もします。でも、それだけでは「普通の純愛物語」と大差ありませんね。

私の学生時代も、携帯もメールもない時代のこと。家族共有の固定電話にかけて、誰が受話器を取るかというドキドキ感がなつかしい!

2008/5