りぼんの読書ノート

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ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)

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ストーリーテラーとしての伊坂さんの真骨頂が発揮されています。今年の「本屋大賞」を受賞した作品。

巨大な陰謀によって首相暗殺事件の犯人に仕立てられた男の逃亡物語なのですが、読者の意識の振幅を狙った構成がいいですね。まず、第一部「事件のはじまり」と第二部「事件の視聴者」で、警察発表やマスコミを通じて一般人が知り得る「事実」に基づく一般的な状況判断をさせてから、第三部の「事件の二十年後」で、それが謀略によって仕組まれた虚像となったことを伝えます。

そうしておいて、本編となる第四部「事件」で当事者の逃亡劇を綴って、読者の「思い込み」を揺さぶるスタイルはお見事。もちろん、当事者たちの顛末を巡る読者の興味は。第五部「事件の三ヵ月後」で満足させられます。

20年後にも真相がわからない巨大な謀略、しかも事件の真相にちょっとでも関係した者でさえ事件の直後に次々と不自然死を遂げさせる超巨大な謀略によって、「犯人役」に仕立て上げられた一市民「青柳君」が、どうやって逃亡を図ることができたのでしょう。しかも、街のあちこちには管理社会の到来を思わせる情報収集ポッドすら配置されているのですから。

それは、学生時代の友人や後輩、別れた元恋人、数ヶ月前に辞めた会社の先輩、以前のバイト先の社長といった、青柳君の人柄を良く知る者たちが、彼の無実を信じて彼の逃亡を手助けしたから。しかも、必死に逃亡する青柳君の心の拠り所が、学生時代の友情の証であったビートルズナンバー「Golden Slumber」というあたりが涙ぐましいのです。

なぜなら、この曲の含まれるアルバム「Abbey Road」のB面というのは、こう続くのですから。
golden slumbers kiss your eyes ~
once there was a way to get back homeward ~
boy, you're gonna carry that weight ~
and in the end, the love you take is equal to the love you make

特に、昔の仲間総出演というあたり、最後の「The End」を相当に意識しているようですね。途中、彼を助ける意外な人物の登場には必然性を感じなかったのですが・・。

言うまでもありませんが、この事件は「ケネディ暗殺」をなぞっています。ほじめの「教科書倉庫」でピンときましたが、途中からは露骨にオズワルドと比較されてます。このあたりは書かないほうが良かったのでは・・とも思いますが、どうなんでしょう。

2008/4