アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』の舞台がウィンダミア湖であることを今まで知りませんでした。今は「ピーターラビットの生地=聖地」としてかなり商業的になってしまったエリアですが、あそこならカヤックを漕ぎたくなる気持ちはわかります。コニストン湖というもっとマイナーな湖で観光ボートを漕ぎました。
きっと、このエッセイの時期に『沼地のある森を抜けて』を書かれていたんでしょうね。水辺から陸地へと向かった生命の営みに触れていた箇所、小説とも共通するものがあります。梨木さんとカヤックというワイルドな趣味の組み合わせは、とっても意外ではあるのですが、自然と真剣に向かい合う姿勢は、彼女の作品に漂う雰囲気そのものと思えるのです。
本書の中で、フェンズと呼ばれるイングランド東部の沼沢地方について触れられていました。この地方を舞台にしたグレアム・スウィフトの『ウォーターランド』も言及されていて、同じ本を読んだ者として頷ける部分もありました。(残念ながら、そこには行ったことがありませんが・・)
風と交感し、鳥と語らい、木々の匂いをかぎ、水の流れに身を委ねなる梨木さんの前に、物語までもが現れてきます。ダム湖に沈んだ村の日常風景や、日本の羽衣伝説にも似たスコットランド民話「アザラシの娘」の情景すら浮かんでくるのです。凛と澄んだ響きを感じるエッセイでした。
2008/4