りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウォーターランド(グレアム・スウィフト)

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ノーフォークイングランドのロストコーナー」との言葉が、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にありました。決して、豊かではない地方なのでしょう。この本は、ノーフォークの沼沢地であるフェンズ地方を舞台に水と深く関わってきた祖先たちと家族の「歴史」の物語であり、「歴史」の結果として存在している個人の物語です。

「子供たちよ」と、生徒に向かって語りかける高校の歴史教師。彼は、歴史を学ぶことに疑問を呈した生徒の声に応えて、フランス革命の授業を中断して、自身の物語を語り始めます。折りしも彼は、30年の間連れ添った妻が突如引き起こした赤ちゃんの誘拐事件によって、退職を迫られているのですが、彼が語ろうとしているのは、妻が事件を引き起こした理由にほかなりません。

没落した地方の名家の娘が水門の番人にすぎない男に嫁ぎ、知恵遅れの兄と語り手である将来の歴史教師を産み落とす。やがて2人の兄弟の人生は1人の奔放な少女とかかわり、将来の歴史教師の妻となる少女の心に傷跡を残すことになる事件が起きたのでした・・。

事件の本質になかなかたどりつかないもってまわった語り口や、フランス革命やウナギの生態(これらもみんな関係してくる!)についてのまわりくどい説明も、この本の魅力ですね。「良質イギリス文学」の伝統を引き継いでいるようです。

2006/10