りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アフリカの蹄(帚木蓬生)

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架空の国の物語とされますが、アパルトヘイトがあった国ですから、誰が見たって南アフリカ。心臓外科の研修のために赴任してきた日本人医師の作田シンの眼を通して、アパルトヘイトの実情と、それに対する闘いを描き出した、ヒューマニズムに溢れた作品です。

名誉白人」の扱いを受ける日本人ですが、それは日本が経済活動を通じてアパルトヘイトの存続に間接的に手を貸してきたから。心臓移植が優れているのは、脳死状態となった黒人からほとんど無償で心臓の提供を受けることができるから。

この国の矛盾に気づき悩みながらも、医師としての人道的な見地から黒人スラム地域で医療を手伝うシンは、黒人の子どもたちだけに奇妙な病気が流行りはじめていることに気づきます。そのウィルスは、WHOによって絶滅宣言がなされたはずの天然痘に酷似していました・・。

一部の白人の超右翼的団体が仕掛けた陰謀というあたりが、かなり虚構性を意識させますが、そんな非常事態の中で、一介の外国人医師に何ができるのか・・という視点で読むべき本です。サスペンスやアクション的な部分はバックグラウンド。

「牝牛の形をしているアフリカの中で、この国は蹄の所にあって白人から蹴散らされている。でも、黙っている蹄ではなく、いつか歩みだし駆ける力を持つ蹄である。」との著者の主張が、ストレートに伝わってくる一冊です。

2008/4