りぼんの読書ノート

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アフリカの瞳(帚木蓬生)

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アフリカの蹄から12年後、前作の主人公で日本人医師のシンは、黒人の恋人パメラと結婚して、この国でずっと医療活動を続けていました。アパルトヘイトは撤廃されたものの、貧困とエイズという二重の枷のもと、この国の黒人たちは依然として底辺で苦しんでいます。

エイズがこれほどまでに猛威を振るうようになった理由は複合的です。避妊を忌避する風習と、治安が悪化し続ける中で多発するレイプ。特許で身を守り黒人には決して手の届かない高価なエイズ治療薬。国家の体面を保つためエイズ蔓延の実態を認めず、有効な政策を打ち出していない政府。

そんな中で、2つの疑惑が起こります。政府が安価で提供している国産のエイズ治療薬は、全く実効がないのではないかとの疑問と、黒人のHIV感染者に日当つきで提供されるという治療薬は、非合法ではないかとの疑惑。妻のパメラや同僚のサミュエルらと調査を開始するシンは、激しい妨害工作に巻き込まれてしまうのですが・・。

2002年から2003年にかけて、南アフリカに何度か出張したことがあります。空港とホテルと訪問先のオフィスを往復しただけですから、その国の何かを理解できる訳もないのですが、高速道路からスラムも見えました。白人居住地域の華やかなショッピングセンターとの格差を強く感じたものです。そこすら危険なので、一人では出歩かないよう、現地の方から強く注意を受けました。無料配布の避妊具が会社のトイレに山積みされていたのもショッキングでした。紫のジャカランダの花はどこにでも公平に咲いていたようなのですが・・。

この物語の前半部分は実話に基づいています。本書では、主人公たちはささやかな勝利を収めることができるのですが、本当にささやかなものでしかありません。そして現実は、それよりもずっと遅れているようなのです。タイトルに込められた意味は、「アパルトヘイトのくびきがなくなって走り出すことができる、その先を見つめる瞳にならなくてはならない」との願いです。

2008/4