りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サイバーパンクの創始者:ウィリアム・ギブスン

イメージ 1

1984年といったら、まだWWW(World Wide Web)もWindowsもなく、ようやく軍事用にTCP/IPが使われ始めた頃。そんな時代に発表された『ニューロマンサー』は、サイバーパンクSFという新しいジャンルを生み出したのみならず、「ネット社会」という現実を大きく先取りしたものでした。

 

では、ギブスンの生み出した「サイバースペース」とは、どのようなパラダイムだったのでしょう。
それは、網の目のように張り巡らせたネットワークによって作り上げられた、「マトリックス」と呼ばれる仮想現実空間のこと。人間は、人体に埋め込んで脳と直結させたインプラントプラグをケーブルに接続させて、マトリックスに進入することができるようになっています。

 

そこは、情報の塊が視覚や聴覚に訴える存在として認識できる世界であり、政府機関や巨大企業のLANは巨大な建造物として認識されるのです。その周辺に無秩序に増殖して広がる情報と合わせてサイバースペース内に擬似都市ができあがっていて、特に、アメリカ北部のニューヨーク近辺は「スプロール」、南部諸都市の連合体は「オレンジベルト」と呼ばれています。

 

腕に覚えのあるハッカーたちは「カウボーイ」と呼ばれ、現実の建造物に侵入するかの感覚でハッキングを行います。でも、それは危険と紙一重の世界。なぜなら、機密情報を扱っているLANは「攻撃型防御プログラム」を備えていて、侵入者に対してショック死を与えたり、廃人としたり、遺伝子情報を変換させて不治の病を送り込んだりする機能を備えているからなんですね。

 

ニューロマンサー』では、マトリックスで進化したAIが自我を持って、神のように振舞いだすまでが描かれます。

 

過去の契約違反の制裁として脳神経を焼かれてジャック・イン能力を失い、電脳都市チバ・シティですさんだ暮らしをしているケイスのところに現れたアーミテージと名乗る謎の人物の依頼は、マトリックスから切り離されて軌道上に存在する「冬寂(ウィンターミュート)」という、最もヤバいコンピューターに侵入することでした。ケイスは、ともに雇われた女サムライのモリイとともに、テクノロジーの支配する宇宙へと乗り出します。

 

実はアーミテージは「ウィンターミュート」の双子のコンピューターである「ニューロマンサー」によって操られていた廃人にすぎません。このミッションの真の目的は、巨大財閥「テスィエ=アシュプール」によって作り上げられて自我を芽生えさせていたものの2つに分割されていたAIが、「合体して完全な自我を持ちたい」との欲望を満たすためのものだったのです・・。

 

ニューロマンサー』で作り上げられた世界は、続く『カウント・ゼロ』と『モナリザ・オーヴァードライヴ』で一層の進化を遂げます。人間の精神が肉体を離れてマトリックス内に存在できるようになり、そこではもう、デジタル化された人間と、AIとの違いなど存在しなくなってしまうのですから。

 

今ではもう、どこかで聞いたことがあるような話かもしれません。
でも、この世界を切り開いたのは紛れもなくギブソンであり、それ以降の様々な進化は、ギブソンの後継者が成し遂げたものなのです。たとえば、ウォシャウスキー兄弟の「マトリックス」は、はじめ『ニューロマンサー』を映画化しようとして企画変更の結果、今の作品になったものとのこと。

 

高校生のときに(既に1990年代です)、この本を読んで、世界がぶっ飛びました。