りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

甘い薬害(ジョン・グリシャム)

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超訳」の本を読んだのは『ゲームの達人(シドニー・シェルダン)』に続いて2冊目(笑)。ストーリーの展開だけを追っても楽しめるようなジェットコースター・ストーリーであれば、「超訳」でもかまわないのかもしれません。本書もそんな一冊。

せっかく弁護士になったのに、最低収入で働く公選弁護士として10年をすごし、そこから脱出する望みも失せかけていたクレイに、怪しげな男からスカウトの声がかかります。彼が弁護することになった、ドラッグ中毒のリハビリ施設から逃亡して衝動的殺人を犯した少年の背後には、テスト的に用いられた新薬の副作用があった可能性があり、その事実を闇に葬って被害者と和解をすれば、とてつもない大金がもたらされる・・と。さらに、その薬品会社のライバルが開発した新薬の欠陥を訴える集団訴訟を起こせば、さらにとてつもない大金が収入として保証される・・と。

誘いに乗ったクレイは、いきなり集団訴訟に連勝して「訴訟王」としてアメリカンドリームの体現者となり、ポルシェ、豪華オフィス、自家用ジェット、モデル美女を手に入れるのですが、そんな甘い話が続くわけもありません。

まじめに社業を営み、地域社会からも愛されてきた会社が弁護士によって破産に追い込まれ、集団訴訟の包括的な和解を強制させられた原告によって逆に訴えられ、さらには自社製品に自信を有し裁判で闘う姿勢を貫く会社が登場するに至って、クレイの足元は揺らぎだします。

そもそも集団訴訟とは、TVコマーシャルなどで依頼人を集めるだけ集めて、懲罰的な判決を恐れる大企業と裁判所の外で和解し、莫大な弁護士手数料を求めるというもの。一人当たりの和解金が数百万円でも、何千人、何万人と原告を集めて、その30%を手に入れれば、莫大な金額になるのです。そこで必要なのは、法律知識でも弁護テクニックでもなく、ましてや正義感でもありません。大衆にアピールし、被告と原告の双方を食い物にして、大企業を恫喝する能力だけで荒稼ぎを行うというヤ○ザのような世界は、アメリカの訴訟制度が生み出したダーク・サイドですね。

日本でも薬害に対する集団訴訟が起きていますが、アメリカとは性格が違いますね。そもそもアメリカでもどこの国でも、薬害の被害者にとってともに闘う弁護士は信頼できるパートナーでなくてはなりまえsん。

2008/3