りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

逆転世界(クリストファー・プリースト)

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「地球市」と呼ばれる要塞都市は、毎年36.5マイルを北に移動する宿命のもとにあり、都市ギルドの全ての労力は、都市を前進させるために費やされています。常に移動している「最適点」に決して遅れをとらないよう、進行方向にレールを敷設して、川には橋梁を架け、必死に進まなければなりません。まずは、時間すらマイルで表されるという奇妙な世界が、読者を考え込ませてしまいます。

本書の大半は、650マイルの年(約18歳ですね)を迎えて成人となり、ギルドに加わった主人公ヘルワードが、この不思議な世界を理解していく過程。はじめて都市の外に出たヘルワードが見たのは、いびつに歪んだ太陽や月でした。原住民から徴発していた女性を村に戻すため、都市が進んできた後方(すなわち過去)に旅行をしたヘルワードは、そこでは全てのものが扁平に押し潰されていることに気づきます。しかも、たった1月程度の過去への旅行は、都市にとっては2年間に相当していたのです。逆にこれから進んでいく北方(すなわち未来)では、全てのものが縦長に引き伸ばされ、時間の流れも逆になっていました。

ヘルワードは、類推します。ここは双曲線を回転させたような円盤形の天体であり、赤道付近ではすさまじい遠心力と重力がかかっているため、無限大の広さを持つようになった世界に違いないと。しかも、北から南へ絶えず地表が流れているために、北極に当たる最適点に居続けないと、すなわち北進し続けないと、生存もおぼつかない世界に違いないと。この世界では、北は未来であり、南は過去なのです。

これだけでも、すごい発想です。でもプリーストは、もう一回これを逆転させちゃうんですね。後に『魔法』や『双生児』でも使われる、立場を変えて物事を捉えなおす手法が、この作品でも使われています。

いったい、ここがどんな世界なのか・・最後に覆されてしまうのは、ヘルワードとともにこの不思議な世界を理解しようとしてきた読者の感覚でもあります。

2008/3