りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ココ・マッカリーナの机(中島京子)

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「ココ・マッカリーナ」なんてラテン系のようですが、実は中島京子さんのこと。日本文化を紹介する教師交換プログラムの教育実習生としてアメリカに渡った際に、日本語の名前をうまく発音できない子供たちから、「キョウコ→ココ」、「ナカジマ→マカジナ→マッカジーナ→マッカリーナ」と名前を変換されちゃったんですね(笑)。

「要するに私は、人生を変えたかったのだ」と、10年勤めた編集者の職を辞めて作家としてデビューする前の、無報酬で働いた1年間の思い出を綴ったエッセイです。まだ30代はじめだった彼女がそこまで踏み切ったのは、占い師から「手相が悪い」と告げられたからだそうです。日頃から「自分の書きたいものを書きたい」と思っていた彼女は、占い師の言葉に後押しされて、数ヶ月で話を決めて渡米しちゃったとのこと。

小学生たちや教師たちや、ホームステイ先の若い夫婦に囲まれて、ちょっとしたことに驚いたり感心したり、泣いたり笑ったりしながら、アメリカ社会を体験していく中で、彼女の気持ちは、ほぐれていきました。

重要なできごとがあったわけではありません。高尚な教育論や、難しい比較文化論を展開しているわけでもありません。オリガミで手裏剣やニンジャを作ったり、ハイクやヒロシマやペリー提督を紹介しながら、コドモたちとすごした1年間が、キマジメで好感の持てる文章で綴られていきます。

この体験が、後になって彼女の運命を切り開くことに繋がっていくんですね。象徴的なのが、20代のサラリーウーマン生活で得た何ものかと引き換えに、身にまとってしまった7キロの増加体重が、すっかり元に戻ってスリムになったこと。手相もすっかり良くなってしまったそうです。本当でしょうか。

思いがけない形で訪れた「転機」ですが、彼女の中で機が熟していたのでしょう。やがて彼女は、傑作『FUTON』を引っさげて文壇デビューすることになります。本書の冒頭に「この本を足を踏み出せないでいる友人たちに贈る」とありました。こういう本を読むと、いろいろ刺激を受けてしまいます。

2008/3