りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

著者は「子供を主人公とする小説は難しい」と述べています。子供を語り手とすることで使える言葉や表現に限界があるうえに、懐古的・教訓的・綺麗事に引き寄せられがちだというのです。著者自身の中にいる夢想家とリアリストのどちらも満足させる「少年たちの小説」という答えは、本書の中に見出せます。

 

「逆ソクラテス

教師の期待が子供の成長に影響を与える「教師期待効果」という法則があるとのこと。自分の決めつけが正しいと信じている教師の先入観を崩すために、子供たちは作戦を企みます。ダメ生徒と思われていた草壁君の成長は爽快でした。まるで「シェーン」のような、転校を繰り返す安斎君の再登場を期待していたのですが・・。

 

「スロウではない」

クラスで疎外されている村田花と仲良くしている転校生の高城かれんは、前の学校でいじめられて逃げて来たのでしょうか。わざと足の遅いメンバーが集められたリレーで、彼女は思いがけない行動を取ったのでした。この作品を含めていくつかの短編に登場している。著者の小学校時代の担任だった磯崎先生をモデルにした教師が、いい味を出しています。

 

「非オプティミスト

恋人を交通事故で喪ったことで無気力になり、生徒たちからなめられている新任教師を変えたのは、どのような出来事だったのでしょう。相手をみて態度を変えることが悪評を生み、自分に撥ね返ってくるという教えは子供たちの身に染みたことでしょう。

 

「アンスポーツマンライク」

最後の試合で敗れてしまったバスケ仲間は、卒業後に違った道を歩み出しています。でも戦いはまだ続いているのです。生徒という弱者に感情的な恫喝を行うことが指導と思い込んでいるコーチや、逆恨みで他者を傷つけようとする者は、どこにでもいるのですから。

 

「逆ワシントン」

正直に謝って許されたワシントンのエピソードは、完全な作り話のようです。では謝罪を弱さと受け取って、かさにかかって責め立ててくるタイプの人間には、どのように接すれば良いのでしょう。正直に謝る勇気を褒めてくれる大人の存在が求められているようです。

 

2022/11