りぼんの読書ノート

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アリアドニの遁走曲(コニー・ウィリス&シンシア・フェリス)

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傑作SF犬は勘定に入れません航路の作者であるコニー・ウィリスさんの、若き日の作品です。設定はSFですが、内容は17歳の少女アリアドニの冒険物語。今ならYAに分類されるのかもしれません。

おそらく今から100年くらい後。北アメリカはいくつもの国家に分割されてしまっているようです。西部合衆国に対するケベック独立戦争が激化する中、アリアドニは両親によってデンヴァーから中立国であるヴィクトリア(バンクーバーあたりです)に疎開をさせられています。

受け入れ先のエセ慈善家の家ではベビーシッターとしてこき使われる始末ですが、彼女だってバイオ企業に勤めている少女科学者。その会社の研究責任者である母親とともに養成していた軍事用のバイオット(菌類ベースの人工生命体)の標本をこっそりと持ち出し、トイレで密かに培養を継続。

両親からの手紙が途絶えて不安に思い、疎開先から脱出してデンヴァーに戻ったアリアドニが見出したのは、光襲(衛星からのレーザー攻撃)によって壊滅した実家と、母がスパイ容疑で逮捕されたというショッキングな事実。保安責任者の父は失意で飲んだくれ状態になっていてアテにならず、代わりに現れたのは同盟国である連邦(おそらくイギリス連邦)のエセックス王子と、その侍従ジョス。

母の嫌疑を晴らすため王子に色仕掛けで迫ったり、研究所のコンピュータ「ミネルヴァ」と仲良くなって情報を引き出したりして孤軍奮闘するのですが、状況は目まぐるしく変わって、誰が敵で誰が味方か、混乱してしまいます。ハンサムで優しいジョスに心惹かれるものの、彼だって本当に味方なのかどうなのか、わかったもんじゃない。

ギリシャ神話で、ミノタウロスの迷宮に踏む込むテセウスを助けたのはアリアドネでしたが、なぜかギリシャ文化が根付いている未来の西部合衆国で彼女を助けてくれるのは、いったい誰なのでしょう。スパイの正体は、ヒネリが効いているのかいないのか微妙な結末でしたが、戦災孤児たちが活躍するラストまで、楽しく読めた一冊でした。

2008/3