そもそもなぜ、UFOや超能力やポルターガイストやファフロッキーズ(地上に不思議なものが降り注ぐ現象)などの超常現象は何の脈絡もなく起きるのか。幼い頃に災害で両親を失い、神に不信感を抱くようになったフリーライターの和久優歌は、カルトの取材を通じて「神」の正体を直感させられるような出来事に遭遇します。
一方、優歌の兄で人工生命の進化研究者である和久良輔は、遺伝的アルゴリズムを研究するうち、「神」の意図に理論的に到達してしまいます。自分と同じ水準の知能を人工的に創造するためには、どのような実験が必要とされるのか。「神」の意図に気づいて恐怖に駆られた良輔は、「サールの悪魔」という言葉を残して失踪・・。やがて「神」によって「神の顔」へと姿を変えられた月が人類を見下ろすようになります。
本書を貫いているのは、「神はなぜ人間を作ったか?」という問題提起であり、最終的にはその解答が示される訳ですが、むしろ神の意図を知った人類の行動規範のほうが問われているのかもしれません。そのキーワードは「ヨブはなぜ悔い改めねばならなかったのか?」。旧約聖書で、神に信仰の厚さを試されたヨブは、およそ理不尽なことをされまくったあげく悔い改めるのですが、そもそもどうしてそんな必要があったのか、意外な答えが示されます。
「宇宙は神の実験場である」とした古典的SF小説『フェッセンデンの宇宙』に触発された小説は数多くありますが、この本は「論証」の点では群を抜いていますね。物語の奇抜さという点では、神に反逆する阿修羅王やユダを登場させた『百億の昼と千億の夜(光瀬龍)』には度肝を抜かましたが・・。萩尾望都さんによるコミックも良かったな。
また著者は、人工知能に到達するための手段として「グローバル・ブレイン」が生み出す「グローバル・ミーム」であると結論付けているのですが、やはり同じテーマを追求している瀬名秀明さんが、「人工知能を育てるのは物語である」としているのとは対照的ですね。この2人を読み比べてみるのもおもしろいですよ。
2008/3