りぼんの読書ノート

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英国紳士、エデンへ行く(マシュー・ニール)

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エデンの園タスマニアにあった?! 19世紀半ば、進化論や地質学によって信仰のよりどころを危機にさらされた牧師は「エデンはタスマニアにあった」との新説を発表し、キリスト教世界で人気を博しますが後援者のおせっかいで、タスマニアまで実証の旅に出るはめになってしまいます。

同行するのは、人種差別主義者の医師と、親離れしていない植物学者。雇った船は、密輸がバレそうになり英国を逃げ出す必要に迫られた、英国人を眼の敵とするマン島イングランドアイルランドの間にある独立精神旺盛な島ですね)の帆船。地球をほぼ半周する船旅は、マン島の船乗りたちと英国人、牧師と医師の対立などで、数々のトラブルに見舞われながらも、ようやくタスマニアにたどり着きます。

一方、タスマニアでは40年ほど前から植民地化が本格的にはじまったばかり。英国から流罪となった犯罪者たちや、現地アボリジニ同化政策を進める人道主義者などが入り混じって、現地行政の混乱は眼を覆うばかり。なかでも、犯罪者の漁師に犯されて混血児を生んだ母親は、白人を憎み、白人に対して戦いを仕掛けるほどだったのですが、こちらの物語は「前史」です。

牧師一行が到達した時には、その母親もとうに捕らえられて亡くなっています。英国人による教育をうけた混血児の息子は、牧師一行をタスマニア奥地に案内するのですが、実は彼は母親の遺志を引き継ぐ決意を固めたところ。これはキリスト教的な世界に対する彼自身の戦いなのでした。反逆の混血児に振り回された牧師一行がタスマニアの奥地で見たものとは・・?

ヒットラーによる民族差別主義は、この時代の英国人によって提唱されたものだそうです。本書に登場する医師は、その民族差別主義者をモデルとしたもので、彼がアボリジニを最下層の民族に分類するあたりは腹立たしい限りなのですが、ラストでちょっとしたブラックユーモア的なしっぺ返しが用意されています。人種偏見と盲目的キリスト教に対する作者の批判は痛烈なのですが、それをストレートに出すのではなく、ユーモアに包んでエンターテインメントに仕上げてくれました。

2008/1