りぼんの読書ノート

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コシャマイン記・ベロニカ物語(鶴田知也)

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プロレタリア文学でありながら、第3回芥川賞(昭和11年)を受賞した作品が表題作です。コシャマインというと、15世紀に道南のアイヌを率いて和人に対する蜂起を起こしながら後に松前藩を起こす蠣崎氏に討たれた英雄を想起させる名前ですが、本書は全くの創作。

本書の主人公コシャマインは、誇り高きアイヌの部族長の息子として生まれながら、父親のタケナシが和人によって討たれた時はまだ幼児。物語は、幼い息子を守り育てる若い母親と、部族長の命を受けて母子を助けるアイヌの戦士の苦闘ぶりを描いていくのですが、これが並大抵の苦労ではありません。既に道南のアイヌの大半が和人に懐柔されているのですから。

淡々とした年代記的な叙述から浮かび上がってくるのは、武力と策略でアイヌの地を侵略する和人の卑劣さと、侵略者の前に誇りを失ったアイヌの惨めさ。読者は、成人した主人公による英雄的な戦いを期待しながら読み進めるのですが、アンチクライマックス的なエンディングを迎えるまで、このトーンは変わりません。

この作品の構図は、「資本家vs労働者」や「日本人vs朝鮮人」にも置き換えられるようです。あるいは「白人vsアメリカインディアンやアボリジニ」や「帝国主義vs植民地」なのかもしれません。どうして2つの民族が隣人として共生することができなかったのかという深い問いが、読者に突きつけられます。

これと較べると、ユーラップ川周辺の開拓民描いた他の作品には、素朴な味わいを感じます。ひとつひとつの作品のテーマは、ほとんど棄民状態に置かれた開拓民の苦闘や悲惨な人生であるのですが、彼らの敵は、厳しい自然だけだったのですから・・。

2009/5(これも北海道に持っていって読まずに持ち帰った本です^^;)