りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

千年の祈り(イーユン・リー)

イメージ 1

アメリカに住む中国出身の新鋭作家、イーユン・リーの短編集。彼女自身が移民でありながら、彼女が綴るのは「移民の物語」というより「中国の物語」が多いようです。

宦官を輩出してきた家系に、党主席そっくりの顔で生まれたために数奇な人生を送る男。結婚することもなく、女工として長年働いた末にお払い箱となった初老の女性。息子を溺れ死にさせた隣村の人々に、堂々と復讐を遂げた男性をたたえる人々。友人をアメリカに出獄させるために、留学する自分の恋人と偽装結婚させた女性。

どうやら彼女が描いているのは、現実に存在している中国ではなくて、彼女の頭の中に存在する観念的な中国のようです。父親が文革中も「聖域」であった原子力関係の仕事についていた関係で、知識人迫害の洗礼を受けずに済んだことも影響しているのかもしれません。

表題作は、渡米した娘を心配して訪ねてきた父親を、うとましく思う娘の話。娘の父に対するやりきれさと、痛ましく思う気持ち、さらには2人の心のすれ違いが感性豊かに表現されています。10編のなかで、これが一番良かったかな。この作品には、自身の経験も含まれているのでしょうか。今後に期待したい作家ですので、あまり観念的になりすぎないで欲しいものです。

2007/1