りぼんの読書ノート

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ニッケル&ダイムド(バーバラ・エーレンライク)

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世界一豊かな国・アメリカは、実は世界一の格差大国です。本書は、フェミニスト批評家として知られる著者が、実際に低賃金で働き「ワーキング・プア」階層の生活を実体験して著した、潜入ルポ。

60歳近い年齢で、ウェイトレス、掃除婦、店員として何ヶ月も働き、最終的にはギブアップするのですが、その体験記は生々しい。時給7ドルで肉体的にもきつい長時間労働をして、その結果手にするのは、家賃を払えばギリギリしか残らない程度の賃金にすぎません。健康保険にも入れず、病気や怪我で休めば、食料にも事欠くという生活。

何より、店長や管理人に徹底的に管理されるという抑圧的な職場環境で自尊心を失っていき、自分を低級な人間だと思い込まされていく様子は、あまりにもリアルで、恐怖すら感じます。「私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に『依存している』ことを恥じる心を持つべきなのだ」という終章の言葉は、とっても重い。

日本でも、アメリカを追うように、経済格差が広がりつつあるようです。派遣、契約社員、請負などの非正規社員は、間違いなく増加しています。本書に書かれた格差社会の現実は、もはや他人事ではありませんね。生活保護水準以下で暮らす家庭が10%にも及ぶ現状を知りながら、「おそらくこの人たちは、一生浮かび上がれないまま固定化する」と平然と言ってのける官僚がいる国に、日本はなってしまっているのです。

1970年代に鎌田慧さんによって書かれた『自動車絶望工場』という潜入ルポでは、重労働と引き換えに、ステレオや自動車などを買い求め、会社が提供するローンで、二重に会社に縛り付けられた若年労働者たちの過酷な現実が描かれていましたが、少なくとも、彼らには「本工」となる道が開かれていたように記憶しています。

2006/9