りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ファンタージエン 夜の魂(ウルリケ・シュヴァイケルト)

イメージ 1

ファンタジー史に残る名作である、ミヒャエル・エンデさんの『ネバー・エンディング・ストーリー』へのオマージュです。ファンタージェンについては、この本だけでなく、ドイツの作家があたかも競作するかのように、シリーズで書かれているんですね。

「虚無」に飲み込まれようとしているファンタージェンを救うため、バスチアンとアトレイユが冒険を繰り広げていたまさにその時に、別の冒険も繰り広げられていました。迫り来る「虚無」から逃れて、ファンタージェンで唯一「虚無」に飲み込まれないという桃源郷ナザグルに向けて移住した、青い髪族。ところが、そこは「恐怖」の支配する地域だったのです。

「幼ごころの君」に嘆願に向かった父の帰りを待って、たった一人で村に残っていた青い髪族の少女タハーマは、一族を悲惨な運命から救い出すため、狩人族の若人セレダスや、地霊小人のヴルグルックの助けを得ながら、ナザグルに向かいます。

もともと「虚無」とは、人の子の無関心が作り出したもの。心は興味を失っても「恐怖」だけは残るという設定は奥が深い。でも、「影の大王」という姿をとった「恐怖」では、「虚無」の持つ圧倒的な不気味さには及びません。ちょっと迫力に欠けましたね。

でも本編と異なって、女の子を主人公にした意味はありました。愛する人々も、拠り所であった青い水晶クリソドゥルも、次々と失っていく中で、彼女はとっても弱い存在になってしまいますが、最後には真の力は自分の中に潜んでいたことに気づくのです。そのあたり、主人公が女の子のほうが説得力ありますね。「女の子のイニシエーションは内に向かう」ものなのですから。

2007/5