りぼんの読書ノート

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林檎の木の下で(アリス・マンロー)

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イラクサに続く、クレストブックスからの短編集。第一部はスコットランドから海を渡ってカナダに根を下ろすに至る「作者自身の一族の物語」であり、第二部は作者の自伝的な小説になっています。決して「大河小説」ではありません。祖先たちの、両親の、自分の人生の断片を切り取って、著者独特の人生というものを見通すかのような視点から語ってくれるのです。

死者のエピソードというのは、なんと残酷なものなのでしょう。将来に対して夢を見て、生活を向上させようと必死で生きた結果が、もう全て「終わったこと」になっているのですから。前章まで、生き生きと語っていた登場人物が、次の章ではいきなり、墓碑銘に残る「名前」となってしまうのですから。

自分の人生も、同じ視点から語られます。アリス・マンローさんは、友人にはしたくないタイプの女性です。あくまで、本書を読む限りにおいて・・ですが。階級意識が強くて、見栄っ張りで、嫌いな女の子を邪険に扱ったり、貧しい両親を恥ずかしく思ったり、知識があることを自慢する女性。逆に、「だからこそ」なのでしょう。過去の自分に対する恥ずかしさや痛みを、読者の前にさらけだして、小説の中で再現してみせることが、現在の「成熟感」を醸し出す。もちろん、どれも短編小説として第一級の作品に仕上がっていることは言うまでもありません。

個人的には、新大陸に渡る船の中で出産した、誰にでも明け透けに言いたいことを言うアグネスや、家族の生活のために、アメリカ人観光客の集まるホテルに毛皮を売りに行く、行動力に富んだ「母」のほうが、好きなタイプなんですけどね。

なお、レトロさんが作成しブログに掲載してくれた「一族相関図」が、この本を理解するのに、とっても役に立ちました。あらためて感謝申し上げます。^^

2007/5