りぼんの読書ノート

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ナイロビの蜂(ジョン・ル・カレ)

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昨年、映画が公開されました。スパイ小説の巨匠、ル・カレの大作ですが、70歳を超えたというのに全盛期の『リトル・ドラマー・ガール』や『スクールボーイ閣下』に匹敵する素晴らしい作品に仕上がっています。お年を感じさせませんね。

 

ケニア駐在の英国人外交官ジャスティンの妻テッサが殺害されます。彼女は第三世界に対する救援活動に熱心に取り組んでいたのですが、巨大企業による医薬品供与の不正を発見していたのです。イギリス政府やナイロビの英国高等弁務官事務所は事態の隠蔽に動き、テッサに同行していて行方不明となった黒人医師ブルームを容疑者として指名手配。さらには2人の不倫関係すらほのめかす中、ジャスティンは、妻の生前の行動を克明に追いはじめます。

 

巨大製薬会社と外務省の双方から追われる身となったジャスティンは、身を潜ませながら、世界中に散らばる妻の交友関係を巡っていきます。断片的な手がかりを繋ぎ合わせて、人体実験ともいえるアフリカでの新薬投与の実態や、科学的議論を封殺している証拠を掴んでいく過程が、圧倒的なリアリズムで描かれますが、亡き妻に対する深い愛情こそが一番の読みどころなのでしょう。2人が信頼しあい、尊敬しあっていた関係であったことが、説得力をもって伝わるから、ジャスティンの超人的な行動が理解できるのです。そして、悲劇的なエンディングも・・。

 

ル・カレは後書きで語っています。「現実の製薬業界のことを知れば,この物語すらおとぎ話でしかない」。薬品規制の厳しい先進国ですら、しばしば薬害が起きていることを思うと、第三世界で何が起きているのか、想像に難くないでしょう。ル・カレと映画で主演したレイフ・ファインズレイチェル・ワイズの3人が中心となって、ケニアで学校やクリニックの設立支援活動を行うトラストが開設されたそうです。

 

2007/5