りぼんの読書ノート

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ハリウッド100年のアラブ(村上由見子)

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イエローフェイス』では、アジア人がハリウッド映画でどのように描かれてきたのかを徹底的に検証した村上さんが、今度はアラブ人のケースに挑みました。ハリウッド映画に登場するアラブ人といえば、9.11以前であれば、湯水のように金を使う民族服を身に纏った産油国の資産家でしたが、今はもっぱら狂信的で残酷なテロリストに成り果てています。でも、これは今に始まったことではありませんでした。

映画の黎明期において描かれたアラブ世界は、「アラビアン・ナイト」に代表されるエキゾティック・ロマンの象徴であるか、「十字軍」の敵役としての野蛮な存在であるかの、二面性を持っていたようです。

アラブ人女性は踊ります。ミディアンの娘はモーゼの前で、シバの女王はソロモン王の前で、サロメヘロデ王の前で、クレオパトラはシーザーとアントニーの前で、誘惑のベリーダンスを舞うのです。

アラブ人男性は戦います。スペインのエル・シドに対して、十字軍のリチャード獅子心王に対して、ロレンスとともにトルコ軍に対して、「アッラー」の雄叫びをあげながら突撃を繰り返すのです。ついでに金髪美女の誘拐もします。

そして今、「アラブ人=テロリスト」の図式がまかり通っています。イスラエルの戦車に対して投石をする女性や子供たちが描かれることがあっても、それすらテロリストを生む背景として説明に使われるだけのケースが大半。

ハリウッド映画のエンターテインメント性を否定する必要はないけど、ハリウッドはアメリカの現政権や、映画界を支えているユダヤ系資本の意向から、決して無縁ではないということを意識していないと、それを見る者の側にも、ステレオタイプの「アラブ人像」しか残らなくなってしまいそうですね。

2007/5