冒頭の「山月記」がいいですね。己の文才に絶大な自信を持ち、社会の歯車となるべく卒業する者たちを侮蔑し、自らの名を死後百年に遺すべき著作をものしている、孤高の学生、斉藤秀太郎。夢破れ、失意のあまり大文字山で異形の姿となった斉藤の独白は、虎になった李徴の独白の悲痛さに匹敵します。これがあるから、あとの4編も生きてくる。
もちろん、パンツ番長が図書館警察の権力に挑む「走れメロス」も最高です。これは、『夜は短し歩けよ乙女』の学園祭の日に起きた出来事だったんですね。闊達に歩き回る黒髪の乙女をひたすら追いかける先輩の影で、このようなドラマが展開されていたとは・・。いや、勇者たちには、もっと早い時期に赤面して欲しいものですが・・。
このシリーズ、もっと読んでみたいな。『みずうみ』のストーカーぶりとか、『檸檬』の無気力な雰囲気とか、『城の崎にて』の見るもの全てに感じる死の予感とか、いい題材になりそうな気がするのですが、いかがでしょう。
2007/5