去年の暮れに読んで私的には大絶賛だった『その名にちなんで』の作者、ジュンパ・ラヒリさんの短編集。デビュー作だそうです。
タイトルになっている「停電の夜に」。妻の流産を境にして、微妙な関係になってしまった若夫婦の話。
5日間続く停電の夜、秘密を打ち明けあうことによって親密な関係を取り戻したかに見えます。ところが、妻は最後に意外なことを打ち明けるのです。それに対して、夫が漏らしてしまう残酷な一言。言葉は怖いな。「言葉の怖さ」とは、移民としての鋭い感覚なのでしょう。
ストレートに移民の感覚を描いていたのは「三度目で最後の大陸」。インドを飛び出してヨーロッパ経由でアメリカに来た男性が、アメリカ社会に溶け込んでいく過程と、結婚生活になじんでいく過程とが、並行して淡々と描写されています。
最後に彼は、自分のアメリカ到着日にアポロが月面着陸したことを思い出しながら、述懐します。「月に20分滞在したこともすごいけれど、はるばるアメリカに来て何千日も住んでいることだってすごい」と。うん、すごいことだよ。やっぱり、この人の小説、好きだな。
2005/2