りぼんの読書ノート

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太陽の簒奪者(野尻抱介)

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純文学とSFやファンタジーとの境界なんて、ほとんど消滅している感がありますが、本書の解説をしてくれた稲葉振一郎さんの定義は明快です。異世界を道具立てに使っても人間ドラマがメインの作品は「小説」であり、「ハードSF」にとっての人間ドラマは、読者の理解を助けるための補助的ストーリーにすぎないというのですから。なんて、わかりやすい。

「コンタクト」がメインテーマの本書は、紛れもなく「ハードSF」です。西暦2006年、水星から噴き上げられた鉱物資源が、地球と太陽を遮る巨大なリングを形成しはじめます。リングが完成する50年後、いや、もっと早い時期に、日照量の激減した地球は、氷河期にみまわれてしまう!

水星の異常を最初に発見した高校生・白石亜紀は、10数年後、天文学者となって、人類が総力をあげて建造した宇宙船に乗り込み、リングを破壊するミッションへと出発するのですが、彼女がそこで見つけたものは、異星人の宇宙船を、太陽系へと導くシステムだったのです。

第2部では、近づきつつある異星人とのコンタクト方法に揺れる人々の姿が描かれます。おなじみの「迎撃派vs友好派」論争ですが、有名人となって年齢を重ねた白石亜紀もまた、苦渋の選択を迫られるのでした・・。

本書の凄さは、異星人の描写について逃げなかった所でしょう。「非適応的知性」という存在は、決して想像を絶してはいないし、ラストになって成立する「対話」は少々ご都合主義にも思えるけど、このくらいの奇跡がなくては「ファースト・コンタクト」は成立しない!

これだけの内容を一気に読ませてくれる、作者の力量は素晴らしいですね。日本のSFはあまり読んできませんでしたが、瀬名秀明さんのシリーズも、最近読んだ山本弘さんの『アイの物語』も、本書も、高い水準です。ただ、リング破壊ミッション中に絶命したはずの、マーク・リドゥリーの「その後」を描くエピローグは不要だったのでは? クラークの『2001年シリーズ』みたいになっちゃいましたよ。

2007/3