りぼんの読書ノート

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イングランド・イングランド(ジュリアン・バーンズ)

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イングランドの南岸に張り付いているようなワイト島に、イングランドの全てを集めたテーマパークを作ってしまう。ビッグベン、ロンドン塔、ウェストミンスターハロッズはもとより、シェイクスピアも、フランシス・ドレイクも、英国空軍もいるし、シャーウッドの森にはロビン・フッドと仲間たちが隠れ家に潜む。ドーヴァーの白い崖も、ストーンヘンジも、作ってしまったし、マンチェスター・ユナイテッドも、101匹のダルマシアンもいる。

そしてこれが重要なのですが、「本物の英国王室!」にワイト島に作ったバッキンガム宮殿へと移住してもらいます。(これがなかったら「東武ワールドスクエア」ですね)。とてつもない富豪であるサー・ジャック・ピットマンの妄想が、プロマネのマーサによって実現したのです。

そして、何が起こったか。世界中の観光客がここに来るようになって、本物のイングランドの観光収入は激減。上流階級の移住とポンド離れが起き、アイルランドウェールズスコットランドは独立どころか、イングランドへの侵略を開始。産業空洞化、エネルギー危機、食料危機に見舞われ、難民も発生。世界から孤立したイングランドは衰退していってしまいます。

本書の主人公はマーサです。短い第1部では、彼女の「最初の記憶は? 覚えてないわ」との自問自答から、記憶が複製と歪曲によって作られることを強調。

本編である第2部では、テーマパークを作ったマーサが権力を奪取してミニ国家の独裁者として君臨するものの、「本物になりきって」しまった出演者たちによって運営に歪みが起き、再度権力を握ったサー・ジャック・ピットマンに追い出されてしまう。

そしてエピローグとも言うべき第3部では、各地を放浪したマーサか、荒れ果てて中世の村のようになってしまった本物のイングランドに戻って、静かな生活を送ることになるのです。本書で繰り返し現れるのは「本物とは何か?」という問い。本物の国家、本物の歴史、本物の愛・・本物である価値は何なのでしょう。答えは示されていません。

2007/3/26読了



(追記)
日本でこんな企画は可能なんでしょうか。佐渡島あたりに、奈良・京都や、渋谷や秋葉原の街並みを作っちゃう。姫路城や(安土城のほうがいいか)、東京タワーも出来るだろうし、義経や、信長や、西郷さんなどの歴史的人物も必要でしょう。大相撲の本場所興行や、サッカーの日本代表戦も欠かせませんね。もちろん皇居も作って「本物の陛下」に住んでいただくわけです。

でもさすがに富士山や、阿蘇や、日本アルプスなんかを作るのは無理。自然美のウェイトが大きい日本では、成り立たない企画かもしれません。