りぼんの読書ノート

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アルファベット・ハウス(ユッシ・エーズラ・オールスン)

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第2次大戦末期、ドイツ上空で撃墜されてパラシュートで降下した2人のイギリス人は、偶然やってきた列車に飛び乗って追跡を逃れます。しかしその列車は、精神に異常をきたしたナチ将校たちを、アルファベットハウスと呼ばれる精神病院に運ぶものだったのです。脱出の機会を得られないまま2人は、言葉も発せないナチ将校になりすまして、病院に入院してしまうのですが・・。

 

しかし本書は、冒頭の憶測を見事に裏切ってくれます。400ページの第1部こそ、2人のうちのひとりであるブライアンの脱出劇なのですが、本書の主題はそれから28年後を描いた600ページもの第2部にあるのですから。

 

アルファベットハウスで精神病を装っていたのは2人だけではありませんでした。ナチスが押収した貨車いっぱいの美術品を着服した悪徳将校たちも、そこに潜んで終戦を待ち受けていたのです。ドイツ語が理解できずに彼らの陰謀に気付かなかったブライアンが脱出できたのに対し、全てを知ってしまったジェイムズが囚われたままであったことが、後に大きな意味を持ってきます。

 

戦後になってもジェイムズを探し続けてきたブライアンは、28年後に訪れた黒い森の小都市で、街の名士に成りあがっていた元ナチの悪党たちに命を狙われることになります。元ナチたちもブライアンを同類と思い続けてきたのですが、笑い事ではありませんね。そしてブライアンは、ジェイムズが向精神薬を飲ませ続けられて、彼らにずっと囚われていたことを知るのです。

 

戦後に変わり果てた戦友と再会を果たす作品には、「ディア・ハンター」や「地獄の黙示録」という重量級の映画がありますが、本書の展開もスリリングです。相当に無理を重ねている感もあるのですが、小さいことは気にしないほうが良さそうです。

 

2019/7