りぼんの読書ノート

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話の終わり(リディア・デイヴィス)

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著者が自ら語っているように、本書の内容は「いなくなった男の話」という、何の変哲もないテーマです。西海岸の街に住み、翻訳業で生計を立て、50歳に手が届こうとしている女性が、10年以上前に別れた年下の男のことを回想しているにすぎないのですが、重層的な構造を感じる作品です。

 

過去を回想している「現在の私」に加えて、小説の主人公である「過去の私」と、両者を統一して作品に仕上げようと試みている「小説家の私」が顔を出します。さらにその枠組みのもう一段外にいるはずの「著者自身」を感じさせる存在すら登場するのです。自分が読んだものは作品なのか、プロセスなのか、思考なのか。

 

とはいえベースとなるストーリー自体はシンプルです。若い男との別れを最終的に意識した「苦い紅茶」のエピソードを冒頭に配し、そんな「話の終わり」がなぜ最初に語られるべきであったかを綴ったラストまで、ずっと「別れの予感」が漂っているのです。「苦い紅茶」は「話を終わらせるための儀式」である以上に、既に「私」が過去を乗り越えていることを読者に示すための道標であったようにも思えてなりません。

 

2019/7