りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

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「その日」とは、サッカーJ2リーグの最終日。昇格や降格が決まる運命の日を迎えた22チームのサポーター22人の、それぞれの思いが綴られた作品です。全てが架空のチームなのですが、それぞれのチーム事情や選手経歴は、実在のそれを彷彿とさせる設定です。チーム名称やエンブレムまで作ってしまうのですから、著者の力の入り方はたたごとではありません。この連作を新聞に連載していた3か月は、これまでの作家生活の中で「もっとも幸せな仕事」だったそうです。

J2チームのファンですから、「遠野から鹿児島まで」の地域性も豊かです。しかし彼らがチームに抱く思いは、普遍的なのです。落ちぶれた地元チームを一度は見放した学生。息子がライバルチームのファンになって動揺する母。失踪した恋人の地元チームを応援するようになった女性。憧れの女子先輩に近づきたい一心で応援に加わった男子高生。消滅したチームの元メンバーを追い続ける男性。休暇観戦を職場に知られるのが嫌で被り物をして応援する青年。観戦すると負けるというジンクスに縛られる女性。亡くなった夫が好きだったチームを応援する老女。

「それぞれに生活の喜びも不安も頭の中には置きながら、それでも心を投げ出して他人の勝負の一瞬を自分の中に通す」喜びが、「郷土愛」とか「誇り」という感情と混然一体となっていくことこそが、地元チームを愛する醍醐味なのでしょう。サッカーのビッグイベントは、4年に1度のワールドカップだけではないのです。

2019/6