りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

杯(カップ)緑の海へ(沢木耕太郎)

イメージ 1

「2002年ワールドカップ」の取材で、日韓両国を何度も行き来しながら21試合を観戦した著者によるノンフィクションは、サッカーという競技が持つ魅力と意味を問いかけて来るようです。

ワールドカップ観戦がもたらしてくれるものは、自国応援の楽しみと、最高のものに出会う歓びだといいます。1次リーグを突破したものの「熱さ」が欠けていた日本と、ベスト4に進出したものの判定に疑惑を残した「熱すぎた」韓国の比較は、それだけで立派な文明論になっているようです。

真の「代表チーム」になるには、勝つだけは不十分。負けることで大きなものを失う経験を積み上げる必要があるという指摘には、「ドーハの悲劇」を思い起こした人も多いのではないでしょうか。決勝トーナメント1回戦でのトルコ戦で敗退した際の日本の淡泊さを、隣国の熱狂ぶりと比較すると、「代表チーム」に託した経験値の違い浮かび上がってくるようです。

その一方で著者は、日韓共同開催がもたらしたものをかなりポジティブに捉えています。日本国民が韓国チームを応援していることを知って、日本が負けて歓声をあげたことを悔やむ女子大生の思いは、その際たるものでしょう。共同開催が両国間の心理的な壁を破って、その後の韓流ブームを起こしたことも否定できません。

それだけに、2012年8月10日のできごと以来の両国感情の悪化が気になります。普段は胸の内に潜めておけば済む悪感情を強引に引きずり出してしまう、政治的ポピュリズムの罪は大きいのです。

2017/3