りぼんの読書ノート

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ファントム(スーザン・ケイ)

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オペラ座の怪人」のエリックは、どのような人生をたどってオペラ座にたどり着いたのでしょうか。彼をファントムに仕立て上げたものは何なのでしょうか。作家の想像力が、彼の半生の再構築に挑んだ作品です。

19世紀のフランス。夫を亡くしたマドレーヌが産み落とした男児は、この世のものとは思えない容貌と、ずば抜けた頭脳と、類まれなる音楽の才能を持っていました。母親から愛されず、それでも母の愛を求め続けた少年は、家を出て数奇な運命に自ら飛び込んでいきます。

ジプシーに捕まって見世物小屋で虐待されながらもイリュージョンを覚え、熟練石工の庇護のもとで建築学を習得したものの、彼に憧れた石工の娘に素顔を見せてしまい悲劇を招きます。ペルシャに流れ着いて王の宮殿を建てるなど重用されたものの、政治問題に巻き込まれて逃走。この時に運命をともにした警察署長が、「オペラ座の怪人」に登場する「謎のペルシャ人」ですね。

やがてパリに戻ったエリックは、オペラ座の設計者となったガルニエを助けながら、自らの隠れ家として地下迷路や地底湖を作ります。幽霊のふりをして歴代のオペラ座支配人を脅迫していたところで、運命の女性クリスティーヌと出会うのです。

単なるつじつま合わせの物語ではなく、本書自体が「ドン・ジョバンニ」や「ファウスト」や「アイーダ」などのオペラを想起させる構造を有しています。ファントムとなったエリックが、狂おしいまでにクリスティーヌの愛を希求した理由まで掘り下げた作品です。

2018/6