りぼんの読書ノート

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千年鬼(西条奈加)

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単なる異界の存在である普通の鬼と異なり、鬼の芽を宿した人が変身した人鬼は、額に二本の角を果たした恐ろしい鬼となるそうです。ひとたび人の心に宿った鬼の芽は、いくたび死んで生まれ変わってもその者に悪心を抱かせ続け、千年に渡って摘み取り続けないと消え去らないのです。

友達になった少女に対して、悲惨な過去世を見せて鬼の芽を生じさせてしまった小鬼は、彼女を宿業から解き放つために身も心も捧げ尽くします。酒浸りで寝たきりの父のために奉公先で耐える少年。好きな人を殺した男を側仕えにして苛めぬく姫君。行商をしながら長屋で一人暮らす老婆。凶作が続く村で愛娘を捨てろと言われ憤る農夫。田舎から出て姉とともに色街で暮らす少女。

生まれ変わるたびに悲惨な運命をたどり、復讐心や恨みに憑りつかれて鬼の芽を破裂させそうになる少女を、小鬼は救うことができるのでしょうか。やがて小鬼の力も尽きようとするとき、少女はどのような運命を選ぶのでしょうか。なかなかハートフルな物語です。金春屋ゴメスという異色ファンタジーでデビューした著者は、普通の時代小説や人情小説に舞台を移していますが、ちょっと不思議な物語がやはり似合っているようです。

2018/6