りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アリバイ・アイク(リング・ラードナー)

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村上春樹さんと柴田元幸さんが、「もう一度読みたい海外文学」の10作品を新訳・復刊している「村上柴田翻訳堂シリーズ」内の一作です。新聞のコラムニスト出身の著者は、1910~20年代に活躍した短編の名手。柴田さんが巻末対談で「純文学というよりは話芸」と述べているように、「すべらない話」ばかりなのです。

「アリバイ・アイク」
何をするにも言い訳を言わないと気が済まない野球選手についたあだ名は、当時の流行語にもなったそうです。美女を射止めたことへの言い訳を本人に聞かれ、振られてしまうのですが・・。

「チャンピオン」
とにかく強いボクサーながら非情で冷酷な主人公は、家族にも妻子にも恩人にも無慈悲な扱いをしてきました。しかし、マネージャーが記者に語る嘘ばかりの美談が記事として成立してしまうのです。主人公の名前「ミッジ・ケリー」も流行語になったとのこと。

「この話もう聞かせたかね」
話し上手な男に聞かせた話が、後にその男の体験談として語られると、普通は白けてしまいますよね。でもその男の話の方が、フィクションを交えたオチまでついていて面白いのです。

「微笑がいっぱい」
ユーモアあふれる名物交通巡査が、無免許で暴走を繰り返す笑顔が素敵な女性ドライバーに惚れてしまいます。しかし、彼の性格を変えてしまう悲劇が起こります。本書の中で一番気に入った作品です。

「金婚旅行」
金婚式を迎えた記念にフロリダに長期滞在した老夫婦が出会ったのは、昔の恋敵の男性。どちらもそれなりに幸福な結婚をしたようですが、「幸せ比べ」は気が詰まりますね。

「ハーモニイ」
趣味のコーラスに熱心な野球選手がスカウトしてきたのは、彼からレギュラーを奪うほどの強打者でした。でも彼は、コーラスのテノールを得たことに満足しているのです。

「ここではお静かに」
おしゃべりな看護婦が、入院患者に向かって話し続けます。数日の間に、けなしていた友人の彼氏を奪いかけ、結局振られてまたけなすのは、あまりにも素直で、かえって好感持てるかも。

「愛の巣」
絵に描いたように幸せな家庭を自慢する夫に対し、元女優の妻は息が詰まりそうな思いをしているのです。このままではアル中になるか、娘を虐待してしまうか・・。

「誰が配ったの?」
「金婚旅行」と似たプロットですが、話し手は夫以外の2人とは初対面の妻。幼馴染どうしの3人に対して夫の自慢話をするのですが、夫は気まずくなるばかり。自分の夫と相手の妻の関係に、気づいていないのでしょうね。

「散髪の間に」
床屋が語る、地元の名物男ジムの話。自分勝手な迷惑男なのに面白がられていたジムは、鴨猟のさなかに銃の暴発事故で亡くなってしまいました。その事故の真相とは何だったのでしょう。

「ハリー・ケーン
豪腕投手ながら素朴でからかわれているハリーは、色仕掛けで八百長に巻き込まれそうになるのですが・・。

「相部屋の男」
無類の強打者なのに傲慢でへそ曲がりなエリオットは、自分から悲劇を招きこんでしまいます。新聞記者あがりの著者だけに、野球やスポーツの話は得意ですね。当時の野球界の雰囲気もよく理解できます。

「短編小説の書き方」
短編小説で重要なのは、タイトルと書きだしだけ? いやいや出版社への送り方も重要なのです。かなり皮肉の利いた作品です。

2017/6