現在は年老いた主人公のデヴィンが、彼女に振られた傷心を抱えながら、海辺の遊園地「ジョイランド」でバイトをした1973年の夏を回想する物語。企業化された「夢の国」ではなく、郷愁を誘うオールドスタイルの遊園地という舞台がいいですね。観覧車、ジェットコースター、メリーゴーラウンド、射的場、占師の館、幽霊屋敷、キャラクターの着ぐるみ犬、妖精に扮した写真係、職人的な遊具担当。そこにはまだ「謎」が残される余地があるのです。
この遊園地の謎とは、4年前に幽霊屋敷で起きた未解決の殺人事件。恋人に刃物で首を切られて死んだ女性の幽霊が出るというのです。幽霊に魅せられてジョイランドに残ったデヴィンは、若くて美しい母親に連れられた難病の少年と親しくなります。実はその少年には「見える」能力があったのですが・・。
作品内で多くページを割かれているのは、その後も長く続くことになるバイト仲間のトムやエリンとの友情であり、難病の少年マイクとの交流であり、母親アニーとの関係です。本書は21歳の青年が失恋の痛手を乗り越えていく物語であり、殺人犯との対決は回復過程におけるクライマックスとして位置付けられるようです。巨匠の手腕を楽しめる作品です。
2017/4