りぼんの読書ノート

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天平の女帝 孝謙称徳(玉岡かおる)

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聖武天皇光明皇后の娘として生まれ、一度目は孝謙帝として、二度目は称徳帝として重祚した女帝とは、どのような人物だったのでしょう。女帝から深く信頼されていた2人の女官・和気広虫と吉備由利が、女帝の真意と突然の死の謎を解き明かしていきます。

天平文化が花開いた奈良時代は、ルネサンス期のイタリアのように陰謀の時代でもあったようです。その背景には、藤原四家vs反藤原勢力(橘氏、吉備氏、道鏡ら)の権力闘争、さらには藤原四家内の骨肉の争いがありました。

孝謙称徳帝の時代も、藤原仲麻呂の専横と反乱、道鏡の登用と失脚などの事件が相次ぎました。とりわけ道鏡との関係がスキャンダルめかして伝えられたことは、女帝否定論の心理的な根拠になってしまったようです。広虫と由利による陰謀との闘いは、現代にも続いている闘いなのです。「女にとって人間の価値を底なしに貶められる決定的な方法は醜聞だ」という由利の言葉は、身につまされます。

本書に登場する者たちは、隼人、巫女、女儒らを除いては、すべて実在した人物です。藤原家の永手、良嗣、百川はもちろん、和気清麻呂の姉である広虫も、吉備真備の妹である由利も、由利の恋の相手とされた中央アジア出身の僧侶・如法に至るまで史実を巧みに組み合わせていることが、リアリティを増しているようです。彼らの享年までもがストーリーに組み込まれているのですから。

孝謙称徳天皇の後、数百年間に渡って女帝が出ることはありませんでした。彼女の遺詔が実現していれば、歴史は変わっていたのかもしれません。

2017/3