りぼんの読書ノート

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秋萩の散る(澤田瞳子)

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著者が得意とする奈良時代を舞台とした短編集です。時代小説の大半は、戦国時代から江戸時代の物語であり、平安から室町期の物語ですら稀な中で、奈良時代を舞台とする小説の書き手は貴重な存在ですね。時代考証だけでも大変そうです。

「凱風の島」
唐と日本の往来が想像を絶する大事業であったことを、たった1年で帰国する若手官僚の藤原刷雄の視点から描いた作品です。この時に日本へと戻る遣唐船には、玄宗皇帝の許可なく6度目の日本渡来に挑む鑑真や、30年ぶりに故国の途に就いた安倍仲麻呂が同乗していたのです。しかも仲麻呂の乗った第2船は、ついに日本に着くことはなかったのですから。

「南海の桃李」
遣唐船の帰路に屋久島に漂着した吉備真備は、目印の石碑が建っていないことに愕然とします。かつての盟友が、石碑を建てるために大宰府に赴任していたのですが、なぜその事業は反故にされてしまったのでしょう。定期的な交流こそが必要なことは、今も昔も変わりないようです。

「夏芒の庭」
奈良時代の大学寮を舞台にした物語。権力闘争によって理想が踏みにじられる様を目の当たりにしながら、日本の威信と将来を担おうとする学生たちの姿が描かれます。落ちこぼれ学生の佐伯上信と、大秀才の桑原雄依は、デビュー作孤鷹の天の主要人物ですね。

「梅の一枝」
文人の筆頭との評判を持つ石上宅嗣は、従姉が聖武天皇との間に息子を生んでいたと聞かされて動揺します。異母弟の存在を安倍女帝(孝謙天皇)に知られたら、失脚どころか命を狙われる恐れすらあるのですから。秀才青年の豊年の機転で苦境を脱する様子はドタバタ喜劇のようです。

「秋萩の散る」
安倍女帝の崩御後に下野国薬師寺に左遷された、晩年の道鏡の様子が描かれます。自分を寵愛してくれたものの、失脚の原因となった宇佐神託事件を起こした女帝に対して、道鏡は複雑な感情を抱いていたのです。ラスプーチンと比肩される怪僧というのは、後世の創作のようです。

2017/2