不思議なタイトルですが、「通称・肉子」の本名は菊子。小さくて太っていて不細工で、港の焼肉屋で働いていることから「肉子」と呼ばれています。若い頃から男にだまされ続け、借金を背負わされ捨てられる人生を繰り返し、日本各地を転々とした末に北陸の小さな漁港町に流れ着いた38歳の女性。
肉子ちゃんには、「通称・キクリン」という小学校高学年になった一人娘がいます、本名は喜久子で、母娘ともキクコとは紛らわしいのですが、名前に秘められた秘密は終盤に明らかになります。母親に似ず美人で聡明なキクリンは、思春期を迎えて、ダサイ母親のことを少々恥ずかしく思い始めたところ。母親のことは嫌いではなく、感謝もしているのですが、その気持ちはわかりますね。
物語は、主にキクリンの視点から綴られていきます。途中でトカゲや猫が喋り出す章が出てくるのは、マジック・リアリズムと思っても、キクリンの創作部分と解釈しても、どちらでも良いのでしょう。学校や漁港での交友関係を閉塞的で息苦しく感じているキクリンは、やがて、「閉鎖性」や「排他性」を作り出しているのは自分ではなかったのかと気づいていくのです。そしてついに、ある事実が明らかになるのですが・・。
なかなかいい作品でした。コミュニケーション能力だけは高いけれどダサくてダメ女の肉子ちゃんを、聖女のように思わせるのは著者の力量ですね。普通のお涙ちょうだいのストーリーだけでは、ここまでの感動は生まれません。
2017/2