りぼんの読書ノート

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バラカ(桐野夏生)

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あの震災で、福島第一原発が4基とも爆発したという架空の日本。東京は避難勧告地域に指定されて、首都機能は大阪に移り、天皇京都御所に移住。放射線量が下がったとされる8年後でも、富裕者層は海外に脱出したままで、東日本に住むのは棄民扱いされた被災者や貧しい外国人労働者ばかり。そうそう、2020年のオリンピックも大阪開催になっています。

「バラカ」とは、震災後に警戒区域で発見された少女の名前。日系ブラジル人として生まれ、ドバイの人身売買マーケットで日本人に買われ、再来日した直後に被災して被爆した少女は、本人の意志に関わりなく、悲劇と希望の両方を象徴する存在へと祭り上げられていきます。

彼女を孫のように庇護して育ててくれた老人グループがいる一方で、強権的な原発推進派も、過激な反原発派も彼女を利用しようとするのです。匿名のネット社会は不気味に彼女を追い詰めていき、全てを忘却させようというエネルギーは強力です。さらに、バラカの義母らを不幸に追いやった悪魔的な女性憎悪主義者の義父にも立ち向かわなければなりません。ディストピアと化した東日本で、たった10歳のバラカは生き延びることができるのでしょうか。

バラカという言葉は、スペイン語では「居場所がない存在」であり、アラビア語では「神の恩寵」という意味を持つとのこと。著者は、両義的な名を与えた主人公を、素直で逞しい少女へと成長させてくれました。「明るく未来に向かうものなんて到底書けなかった」と言いつつも、「作者が絶望したからといって投げ出さず可能性を書く」という著者の姿勢が、彼女の造形に反映されているのでしょう。単行本化に伴って加筆されたエピローグは、ささやかな希望を感じさせてくれます。

2016/12