りぼんの読書ノート

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捕食者なき世界(ウィリアム・ソウルゼンバーグ)

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サイエンスライターの手による本書は、「頂点捕食者の生態系影響についての学説史」を紹介したうえで、人類がつくりだした価値観や文明観を問い正す作品になっています。

食物連鎖のピラミッドにおいて「底辺が頂点を支える」という従来からの学説に疑問を抱いた、ミシガン大学ヘアストン、スミス、スロボトキンが「生態系は補食連鎖という形で上からコントロールされているのではないか」との仮説を唱えたのが1960年のこと。

それ以降、ヒトデを駆除した岩礁で多様性が崩壊したことを検証したロバート・ペイン、北太平洋のケルプの森はラッコによって守られていることを解明したジェームズ・エステス、トッププレデター不在となったベネズエラダム湖の島が地獄と化した調査を行ったジョン・ターボーらによって、この理論は実証されてきました。そして、オオカミが絶滅した後に大増殖したシカが害獣化したイエローストーンへの、オオカミ再導入プロジェクトへと至るのです。

ところで人類による頂点捕食者の一掃は近年始まったことではなく、大型哺乳類の絶滅は、ヒト科が進化を遂げた更新世末期から始まっているとのこと。私たちは既に、地球の生物多様性のあるべき姿など想像もできなくなっているのかもしれません。「ヒトは自分が育った時代を美しいと考える傾向があり、それ以前の真の自然を理解できない」とか、「捕食者を失った自然は中間捕食者だらけになってスライム化する」などの、示唆に富んだ指摘も印象に残りました。

本書はハチはなぜ大量死したのかと同一の編集者によって出版されたとのこと。こういう本を読むと、人類の行く末が気になるのです。

2016/12