チャウシェスク政権崩壊から約半年後のルーマニア。ブカレストに赴任してきたアメリカ防疫センターの女医・ケイトは、劣悪な環境と拙劣な医療技術のもとで多くの子供達が死亡していくことに、無力感を募らせていました。そんな中で面倒を見ることになった重度の免疫異常を持つ幼児を救うため、養女にしてアメリカに連れ帰ったケイトでしたが、それは悪夢的な体験の始まりでした。
ジョシュアと名付けた幼児は免疫異常を補うための特殊な器官を持っており、正常人の血液を吸収することによって免疫力を回復・再生させるという能力を発現させるのです。ルーマニアの辺境にのみ生き残っていた極めてまれな劣性遺伝的体質の発見は、エイズや癌の画期的治療の鍵と期待されるものの、それだけではありません。ケイトは母親的な愛情をジョシュアに注いだのです。
これは、伝説やモンスター的な要素を排除した「シモンズ流のドラキュラ伝説」ですね。時折挿入される「血と戦いの夢」と題されたドラキュラ本人の回想録は、なかなかの迫力。チャウシェスク政権による児童虐待の史実と怪奇伝説を組み合わせた着想が生んだ「SF的ゴシック・ホラー」です。
2016/10