りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ダーウィンの子供たち(グレッグ・ベア)

イメージ 1

ダーウィンの使者』で、遺伝子に潜むウイルスによって新人類が誕生してから12年。思春期を迎えつつある「ウイルス・チルドレン」は、やはり旧人類には受け入れられず、アメリカでは各地で隔離されたままの生活を送っています。

ウイルスを発見した分子生物学者ケイと考古学者ミッチは、11歳になる愛娘ステラと長い逃亡生活を送っていましたが、彼らにも政府機関の手がしのび寄ってきます。その頃、各地の収容施設で多くの子供たちが相次いで死亡する事態が発生。病因特定を依頼されたウイルスハンターのディケンが見出したものは、衝撃の事実でした・・。そして新人類誕生の第2派が、さらには新人類の出産という事態が展開していきます。

「もしも人類の進化が一世代で成し遂げられたら、何が起こるのか?」をテーマとして書かれたSF小説です。かつてミッチがアルプスで発見した「ホモ・サピエンスの幼児を抱いたまま死んだアウストラ・ロピテクスの母親」に象徴される、異なる種の共生は可能なのでしょうか。

「意外にも」というか「案の定」というか、混乱が起きたのはキリスト教世界であって、それ以外の宗教世界は新人類を比較的穏健に受け入れたようです。体内の異物を排除する免疫機能を一時的に低下させないと成立しない「胎生」こそが、ウイルスによる胎児の突然変異を可能とするとの設定が、キリスト教の「原罪」感覚に抵触するとされるのですが、宗教の寛大さはどうなっちゃったのでしょう。

「新人類」の描き方に迫力がないのが少々惜しいかな。競争原理に基づく資源浪費と人口爆発が「種としての人類」の存在を脅かしつつある現在、「新人類」には「地球に優しい種」となることが求められるのでしょうが、「ガンダム」のニュータイプや『地球幼年期の終わり(クラーク)』などで新人類のイメージを持っている者には物足りないかもしれません(笑)。

2010/12