りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

モダン(原田マハ)

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マンハッタンの53番街にあるニューヨーク近代美術館(MoMA)は、出張の際に時間があれば必ず訪れている美術館です。そのコレクションだけでなく、建物も活動理念も素晴らしいのです。本書は、MoMAに勤務経験があり、絵画を題材にした小説で3度目の直木賞候補となった著者による短編集。いずれもMoMAを舞台にしています。

「中断された展覧会の記憶」
MoMA理事会が、福島美術館に貸し出されていた「クリスティーナの世界」の引き上げを決定。会期中に発生した、東日本大震災後による原発事故の放射能被害を避けるためというのです。MOMAの日本人職員・杏子は、複雑な思いを抱いて福島へと向かうのですが・・。小さな作品ですが、大好きな絵です。足が不自由なクリスティーナが向かっている先は、広い世界です。たぶん。

「ロックフェラーギャラリーの幽霊」
MoMAの監視員・スコットは、閉館時間間際に「アビニョンの娘たち」の前でたたずんでいる不思議な青年に気づきます。翌日には同じ青年を「鏡の中の女」の前で見かけたものの、いつの間にか見失ってしまいます。その日の新聞には、ある人物の死亡記事が載っていました。

「私の好きなマシン」
工業デザイナーのジュリアは、1929年に27歳の若さでMoMAの初代館長に抜擢されたアルフレッド・バーが亡くなったと聞き、彼と初めて会った「マシン・アート展」のことを思い出します。工業用のボールベアリングに芸術性を認めたのは、彼だったのです。そして彼女には、意外な仕事が舞い込んできます。

「新しい出口」
MoMA職員のローラは、親友だった同僚が9.11テロで犠牲になってしまった後遺症に悩まされていました。2人が夢みていた「マティス ピカソ展」の開催は、彼女の気持ちに整理をつけてくれるのでしょうか。

「あえてよかった」
MoMAでの研修を終えた森川麻美は、いろいろと面倒をみてくれたパティから、最後のメッセージを受け取ります。それはMoMAが認定した素晴らしいデザイン品を利用していたのです。「We are happy to serve you」との文字が大きく印刷された紙のコーヒーカップは、私も覚えていますよ。

2016/7