りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

獅子吼(浅田次郎)

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太平洋戦争、高度経済成長期、大学紛争期と、すでに「過去」となった「昭和」をテーマにした短編が収録されています。いずれも、時代の波に飲まれながらも、運命を受け入れる者たちを主役に据えた物語です。

「獅子吼」
格調高い孤高のつぶやきの主は、動物園のライオンでした。戦争末期、食糧難から射殺される運命を悟りつつ、それでも射殺の役を担わされた若い飼育員の心情を慮るライオンは、やはり誇り高い百獣の王なのです。

「帰り道」
高度成長期、中卒で集団就職した女性事務員の恋は叶うのでしょうか。工場が主催した夜行バスのスキーの帰り道、沼田のドライブインでの出来事は、あまりにもせつないのです。

「九泉閣へようこそ」
8年つきあった不倫相手のことを、ようやく自分の人生を狂わせた男と思うに至った女は、ある決意を秘めて温泉地へと出かけます。一方で、老いた番頭が客引きをする寂れた旅館もまた、破綻に瀕していたのです。

「うきよご」
大学紛争で東大入試が中止となった年に、翌年の東大受験を目指して上京した青年には、複雑な家庭環境がありました。しかし青年は、東京で学生下宿に入った彼を親身に世話してくれる腹違いの姉もまた、私生児であったことを知らなかったのです。タイトルは「浮世子」とでも書くのでしょう。

「流離人(さすりびと)」
戦争末期、学徒出陣で満洲へと派遣された青年士官は、鉄道で任地に向かう途中で何度も「桜井中佐」と名のる軍人に出会います。ゆっくり旅して、任地に到着しなくても良いと進める中佐とは「サスライ中佐」なのでしょうか?

「ブルー・ブルー・スカイ」
ラスベガスの場末の食料店にあるポーカーマシンで、ビッグヒットを出してしまった中年男性。店主が金を引き出しに行った間にやってきた強盗は、ホテルをクビになって自棄を起こした男だったのですが・・。『カッシーノ』の著者らしい作品です。

2016/7