りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

円卓(西加奈子)

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渦原琴子、通称こっこ。公団団地で、祖父母、両親、三つ子の姉と8人暮らし。家族全員から愛されている一方で、にぎやかな家族に辟易しており、とりわけ「あの美人三つ子の妹」と呼ばれることが大嫌い。好きな言葉は「孤独」であり、「可愛そうな状況」に置かれたいと願っている女の子。

そんな彼女のまわりには、いつも言葉が溢れています。級友たちの不幸や病気に憧れるこっこは、初めて聞いて関心を持った言葉を、秘密のノートに高い筆圧で記しているのです。こっこには、憧れたり真似したりてもいいことと悪いことの区別が、まだついていません。

そんなこっこに、活字が好きで印刷工となった祖父から、「いまじん」という言葉が授けられます。相手の気持ちになって考えて想像することの大切さを教えられるんですね。もちろん、言葉を知るだけでは不十分。本書は、幼い少女がひと夏の経験を通して「いまじん」することを、ちょっとだけ理解する物語なのです。

偏屈に凝り固まった級友が書き連ねていた「しね」という言葉を、こっこが解き放つラストシーンは秀逸です。本書を映画化した行定勳監督は、「かつて子供だった大人たちが忘れてはならない大事なこと映画にしたいと思った」と語っています。渦原家の家族たちも、こっこの級友たちも皆、魅力的で、大阪弁も気になりませんでした。

2016/2